STUDIO LUMIERE  

「 アラーキー(荒木経惟)と篠山紀信の論争に想う 」

アラーキー(荒木経惟)が最愛の妻、陽子さんと出会ってから病の床に臥し他界するまでを撮り続けた写真集の最後に「棺の中の陽子さん(の顔)」を撮って載せ、出版した。この写真をめぐり、同じ写真家である篠山紀信と論争になる。

その一部はこんなやりとりだと言う。

篠山 「そんな不遜な写真集なんか僕は見たくないね。あなたの写真は一面的じゃないというか、
     多義性を孕んでいるからこそ面白かったんじゃないですか。
     本当のこというとこれは最悪だと思うよ。
     荒木ほどの奴がこれをやっちゃったのはどういうことかと思ったね。」

荒木 「一回妻の死に出会えばそうなる。」

篠山 「ならないよ。女房が死んだ奴なんていっぱいいるよ。」

荒木 「でも何かを出した奴はいない。」

篠山 「そんなもの出さなくていいんだよ。これはやばいですよ、はっきりいって。」

荒木 「いいや最高傑作だね。見てるとミサ曲が聞こえてくるでしょう。」

篠山 「だからつまらないんじゃない。ミサ曲が聞こえてくる写真集なんて誰が見たいと思うの。
     あなたの妻の死なんて、はっきりいってしまえば他人には関係ないよ。」

荒木 「だからこれは俺自身のためのものなの。なんといっても第一の読者というのは自分なんだから。
     俺の写真生活はこれで第一ラウンドが終わったという感じがするね。
     陽子で始まって陽子で終わったんだな。」

     (「波」新潮社 1991年発行の対談の一部抜粋。)

まず、お詫びしなければならないのは、私が原文を全て読んでいないということ。今ある材料のみで判断したこと。後日全文を手に入れることができましたら、その時にあらためて、加筆修正させていただきたいと思います。

まず思うのは、「人の死」という重いテーマに、
撮る側と、見る側の様々な思いが交錯するのは必至。
こうしたテーマは「論ずるのみ」のモノで、
正解や万人が納得する着地点を見出すことは甚だ困難であるということ。
そもそも、出版社の担当が、部数をかせぐタメに仕掛けたデキ試合だったことも疑われる。
そこで写真界の巨頭2人の写真観を闘わせてみたかったにすぎないのではなかろうか。
それもなんだか八百長プロレスのようなオーバーアクション。
一部の人は論争の勝ち負けを論ずるが、あまり意味のあることに思えない。

篠山がテンションをあげて荒木に詰め寄るくだりが、どうも芝居がかっている。
篠山は写真家としては一流だが、演者としてはいかがなものか。
一方、荒木は荒木で、詰問に軽く抗うような姿勢を見せはするが基本的には、
かわし、はぐらかし、とても本気で土俵に上がっているとは思えない。

土俵ついでに言わせてもらえば、そもそもが荒木の写真が土俵のすべてなのだから
呼ばれてもいない人間(篠山)が、人の家にわざわざやってきて、食卓のものを勝手に食い散らかし
「おまえんとこの飯は美味くないな。」とケチをつけているような見苦しさを感じる。
篠山ファンとしては不本意だ。
不本意ついでに言うと、どんなミサ曲かは分からないが、ミサ曲が聞こえてくる写真はあっていいと思う。
さらに、天才アラーキーが陽子さんの最期をどう表現するかにも大きな興味がある。
私のような者が一人でもいたら篠山の発言は灰燼と帰するということか?
篠山ほどの人物が本当にそんなことを言うのだろうかと耳を疑う思いだ。
きっと下手な演出家による下品な演技指導でもあったのではないかと疑いたくなる。
そう思わずにはいられない。

「荒木と篠山が論争、対立!絶交か!」などと見せかけに踊らされたが、
とどのつまり、各自自由にどうぞ。ということだ。
田原総一郎を演じ損ねた篠山が、ババを握らされたということか?
話題のみをさらっていったとすると、アラーキーも人が悪い。
読者にも何が何やら。陽子さんも草場の陰で苦笑いだろう。

この写真は、篠山が言うような、ヤバくてつまらないものなのかな…と、
写真をあらためて見直し、棺の中の陽子さんの思いにも触れてみたいと思った。
手元の写真集をめくっていると、それはあっさりと記されていた。

夫はこんな私を慰める為に、いつも大ぶりなイキイキした花束を抱えてやってきた。一抱えもあるような背の高いヒマワリは見事だった。夫の去った後、鮮やかな黄色の炎のようなヒマワリを見ていると、確かにそこには夫の姿やぬくもりや匂いが感じられ、私はいつまでも見つめ続けていた。人の思いというのは存在する、本当に存在して、疲れた者の体と心をいやしてくれるんだ、と私はこの時いやというほど感じ入った。涙がボロボロ流れ出してなかなか止まらなかった。(平凡社 荒木経惟写真全集3 陽子 より)
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by mooriyan | 2015-07-25 22:04 | mooriyan